【JKプロレス】宮崎沙耶香 vs 前田陽菜

はぁ…苦しい。今のは効いた。
そりゃラリアットだけじゃないよね。

くっ、立たせられる、やっぱ休ませてはくれないか。
危なっ!足だ、今度はボディスラム狙いか。
そう簡単には取らせないんだから。

たぶんバックはまだ取れないし、この試合終盤で私がジャーマン狙っているのもわかっているはず。
だったら…。

 

8分を超える長期戦でどっちも動きが落ちてきた。
それでもバックを取れないならこのままぶっこ抜いてやる!

再び足を狙いに来たのをかわして、そのスキにエルボーを打ち込む。
すかさず腰を落として正面から沙耶香の身体を抱え上げそのまま後方にブリッジした。

 

フロントスープレックスだ。
沙耶香の足が宙に浮いて身体が前に倒れていく。
そしてそのまま背中からリングに叩きつけた。

このままブリッジで押さえ込んでも返される。
だからすぐさま位置を変えて足を取り、片エビ固めで押さえ込みに入った。

 

しかしレフェリーがリングを2回叩いた直後、沙耶香が肩を上げてフォールを返した。もう時間がない。

フォールを返した沙耶香を今度はうつ伏せにしてSTFを決めた。

うつ伏せの沙耶香の右足を両足に挟み込んで背後からフェイスロックで絞り上げた。
沙耶香からうめき声が漏れる。
よし、いける!

 

でもこれはロープが近くてあっさりロープブレイクを許してしまう。
関節技をあまり使わないので位置取りが上手くいかなかった。
あとちょっとだったのに!

 

もはやお互い満身創痍。
ふらふらと立ち上がりながらもがっちり組み合った。
試合時間は残り1分を切っただろう。これが最後の攻防だ。

すると沙耶香がさらに距離を詰めてくる。

 

え、何?
こんなに近いとロープに振れないしボディスラムにも入れない。
あ!やられた!ベアハッグだ!

 

私の身体を両腕で抱え上げて締め上げてくる。
このタイミングでパワー技に入ってくるなんて。
でもこんな技、長くは続けられないはずだ。

 

ぐっと力を入れて締められ、身体がのけ反る。
まるで万力に締められているみたい。
沙耶香の武器はパワーだけど、試合終盤にかけて力が増しているように感じる。

 

やばい…息が…!

 

そう思ったのも束の間、沙耶香は技を解いた。

倒れはしないけどふらふらだ。
締め付けから解放されてようやく満足な呼吸ができた。

 

はぁ、危なかった…。
あっ、何!?抱えられた!?
いや違う!担がれた!しまった!

 

沙耶香は私を肩に担いでいた。
これは肩に担いで相手の身体を反り上げる、アルゼンチンバックブリーカーの体勢だ。

 

「やっと捕まえた。これで終わりよ」

 

左脚と顎に手をかけられた。
持ち上げられているからロープには逃げられない。
だったら、絶対に仰向けにされちゃだめだ。
残り時間は?
あとどれくらい粘ればいいの?
とにかく身体が横向きの間はまだ堪えられるからこの姿勢を維持して…

 

沙耶香が上下に揺さぶりをかけてくる。
身体が弾みながら少しずつ仰向けにされていく。
ダメだ、踏ん張れない!

 

ついに完全に仰向けにされた。
すると顎と足にかけられた沙耶香の腕が一気に下に力を加えてくる。
沙耶香の肩の上で身体が折り曲げられていく。

 

「レフェリー!」

「前田ギブ?ギブアップ?」

「っ…!の、ノー!」

 

残り時間も僅か。
沙耶香の力ももう限界のはず。
ここでギブアップしてたまるか!

 

「はぁ…はぁ…まだ堪えるの?もう限界でしょ!?」

「ぁ…!ぐ…!」

 

き、きつい!腰が!
試合終盤で何でこんなパワー出せるの?

もう全身が悲鳴を上げている。

 

「だったら、これで、どう!?」

 

がっちりとアルゼンチンバックブリーカーを決めたまま沙耶香が上下に揺さぶりをかけてきた。
既に限界まで反らされていた身体が弾みをつけてさらにしなって反り返る。

 

「あぁっ!っ...!あぁぁぁっ!ぁあ˝っ!」

 

こ、腰が!やばい!苦しい…!

 

あともう少し堪えれば…。
試合時間いっぱいまであと1分もないはずなのに、永遠のように長く感じる。
苦しい。体力ももう限界だ。
意識にうっすらと靄がかかったような気分になる。

 

遠くでゴングの音がした。
隣の試合終わった?
いや、こんな時にそんな音聞こえるわけない。

 

「ストップストップ!そこまで!」

 

今度はさっきよりもはっきりと聞こえ、沙耶香の身体をつたってリングに滑り落ちた。

 

あれ、終わった?
私ギブしてないよね?
10分経った?
あぁ、だめだ。すぐには動けそうにない。

 

「前田さん大丈夫?身体動く?」

 

レフェリーが頬を軽く叩きながら話しかけてくる。
腕、足と触って身体を確認しているみたいだ。

とにかく身体が重い。長い試合だった。

 

「はぁ…はぁ…はい…。大丈夫です」

 

私の返事を聞くと安心したのか沙耶香の方に向かっていった。

するとレフェリーは沙耶香の腕を上げて勝ち名乗りを上げた。

 

え?何で?

 

慌てて身体を起こそうとしたけど、たぶん首が少し起きただけでほとんど動けない。
とにかく身体が痛んだ。

事態が飲み込めないまま呆然とする。
近寄ってきた沙耶香と、何も考えられないまま無意識に握手をしたみたいで、沙耶香はそのままリングを後にした。

 

リングを降りた後に沙耶香は一度だけこっちを振り返った。
勝ち誇った様子はない。何故か悔しそうにも見えた。
いや、ただ一瞥をくれただけのようにも見える。
何がどうなったのかわからない。
でもその時の沙耶香の表情が目に焼き付いて頭から離れなかった。

 

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