【JKプロレス】前田陽菜vs大塚咲来

雪が降るかもしれないと朝の天気予報では言っていた。
冬の空はどんよりとしていて、気持ちまでどんよりとしてしまいそうだ。
時折吹く強い風に押されるように街路樹の枝がやんわりとしなる。

昼休みが終わってからの授業は上の空になってしまい、窓の外に目を向けている。
でも頭の中は外の様子なんて気にかけていなくて、別のことでいっぱいだった。

 

今日は咲来との試合だ。

授業が終わったら翔瑛女子大に移動して軽く練習する。
大学生の練習でわざわざ時間をあけてもらってリングを使わせてもらう。
全部美月先輩が段取りをしてくれた。

交流試合から1週間と少しが経つ。
部員は相変わらず2人なので、その間も学校では今まで通り一緒に練習した。
こんなにもみっちり練習している相手との試合はやっぱり不思議な気分だ。

先週の交流試合で私は初めて3勝0敗だった。
安田葵との試合はまだもやもやしているけど成績としては申し分ない。
自分の試合が終わり、咲来も最後の試合は欠場になったので、高山さんの試合を観に行った。

高山さんのグループにも千葉県の白浜女子1年がいた。
強豪校対決だったけど、危なげなく白星を上げていた。
相手の技を受けても、足を取られた時も的確に対処し、決定打を受けない。
攻撃は言わずもがなの迫力で、長身から繰り出されるダイナミックな技に思わず息を止めてしまうほどだった。

「陽菜、さっきの授業聞いてなかったでしょー」

すっかり上の空のままチャイムが鳴ってあかねが話しかけてくる。
この成績優秀者は家では勉強したくないからと授業中に全部頭に入れてしまう。

「六限目はもうきついんだもん」

「今日のサラリンとの対決で頭いっぱいなんでしょ」

授業が終わっているのに机の上で開きっぱなしになっている教科書をあかねが閉じながら言う。

「楽しみ?それとも恐い?」

「楽しみに決まってるじゃん。でも、ずっと2人で一緒に練習してさ、もうすぐ一年になるって思うと、他の対戦相手とはまた違った見方しちゃうな」

「陽菜が作った部活で陽菜が勧誘した唯一の部員だもんね」

一から自分で作った環境で、咲来は咲来なりに思うところがあったみたいで仲間になってくれた。

「うん。でも今日は絶対勝つ」

 

授業が終わって咲来と一緒に翔瑛女子大に向かった。
いつも通っている道なのに何となく緊張する。

「なんかさ、緊張するね」

「うん」

咲来も言葉少な、と言いたいところだけど、たぶんいつも通りだ。

話すことがないわけではなく、頭の中で今日の試合のシュミレーションをしている間に大学に着いた。

着替えていつも通りアップする。
ストレッチから軽めの筋トレ、リングの上での動きと受け身の練習を終えて休憩に入った。

「じゃあちょっと休んだら試合ね。準備いい?」

「はい!」

美月先輩に咲来と私が応え、それぞれのコーナーに移動する。
私のセコンドには藤本まどかさんが、咲来の方には大島莉子さんがついてくれた。
竹内葵さんは急遽バイトが入ってしまいレフェリーは美月先輩が務めてくれる。

コーナーに立って咲来の方を見ると、いつもより遠くにいるみたいに感じた。

「10分1本勝負ね。レディー…ファイッ!」

 

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