【JKプロレス】前田陽菜vs大塚咲来②

ゴングが鳴ってすぐさまローキックを放つ。咲来の得意分野だ。
様子を見ている間に攻め込まれると分が悪い。
だったら自分から仕掛けてやる。

意表を突いたつもりでいたけど、これはあっさりガードされる。
さすがにこの程度で動揺は誘えない。
こっちだってそんなの想定内だ。

すぐさま咲来のローキックが返ってきた。
今度は私がきっちりガードしそのまま前に出て、ロックアップに持ち込んだ。
組んでしまえばこっちのもんだ。
でもしっかり踏ん張っていてボディスラムには入れなさそう。
だったらヘッドロックだ。

組んだ状態を振りほどきながら咲来の頭を脇に抱えるようにして締め付けた。
腕の中で逃げようともがく咲来をさらに締め上げる。
じわじわと頭をずらしてようやく逃れた咲来が私のバックについた。
そして私の胴体を抱えた。

ジャーマン!?いや、咲来にはまだできないはず。

そう思いながらも反射的に持ち上げられないよう腰を落とした。
すると右足に咲来の足が絡みついてくる。
そして左脇の下から咲来が入り込んできた。コブラツイストだ!

咲来が両腕をバインドしてコブラツイストに入った。
決められる直前に体勢が崩れ切っていなかったので身動きが取れないほど固められてはいない。

背後を取られたまま寝技に持ち込まれないよう気を付けながら振りほどき、咲来をロープに振ってラリアットを打ち込む。

もう一度ロープに走らせて、戻ってきたところでドロップキックを決めた。
すぐに立ち上がると咲来も起き上がろうとしていた。
受け身からの立ち上がりもうまくなったなと少し嬉しい気持ちになる。

 

でも一瞬先に立ち上がった私が追い打ちをかけた。
咲来の足を取って抱え上げると、ボディスラムで背中から叩きつけた。
すぐさま両足を取って脇に抱えると、咲来が身を捩って逃げようとする。

いいタイミングで足を取れた。
試合中盤での逆エビ固めは体力差を広げられる。

何とかステップオーバーし、抵抗する咲来をうつ伏せにする。
でも簡単には反らせられない。
この一年頑張った筋トレの成果なのか、身体が反らないよう踏ん張りながらロープに向かって進んでいく。
咲来がロープを掴むと美月先輩がロープブレイクを認めたので、技を解いた。
有効なダメージは与えられなかったけど体力は削れたはずだ。

 

そこから咲来も調子を上げてきた。
鋭いローキックを一発、二発と立て続けに放ってくる。
少し近い間合いで打ってきたのでスウェーは間に合わず、足を上げてガードするしかない。

すると前に出て距離を詰めてきた咲来にロープに振られる。

ドロップキック!
まだ少し打点が低いけどタイミングはばっちりだ。
またロープに振ってくる、今度はジャンピングネックブリーカー!
ここで抑え込み!?
まだまだ返せるっつーの!
あ、でも片足取られた!
大丈夫、ロープはそう遠くない、何で来る?
ストレッチマフラーだ!
足攻めは長時間食らうと後々響いてくる。
あぁだめだ、振りほどけない!

 

咲来は私の右足を首にかけて両腕でしっかり押さえている。
しかも立ち上がって宙吊りにしてくるからロープに這って進めない。
不安定で支えにくい技な分、かける側も力を使う。
それでもここは確実にダメージを与える決め方をしてきた。

自由な左足でリングを蹴ってなんとか咲来の体勢を崩して技から抜けた。
追い打ちを食らわないよう、すぐさまロープにしがみつく。
咲来の攻撃をようやく切った。

 

仕切り直して今度はこっちから仕掛けていく。
ロックアップからのボディスラム、立ち上がらせてエルボーを胸元に打ち込みながらコーナーに追い詰めていった。
さらに反対のコーナーに走らせ、後を追ってヒップアタックでコーナーポストと挟み撃ちにする。

今のは効いた。
咲来は胸を押さえながら肩で息をしている。
このまま決める!

 

咲来を引っ張って周りのスペースを確保し背後に回り込む。
でも咲来も抵抗し、完全に背後を取れない。
ニーリフトの動きが見えたのでひとまず距離を取る。
さらに鋭いキックが頭部をかすめた。

ハイ狙ってきたな。
当たったらほぼ確実にダウンさせられる。
土壇場の劣勢なら絶対に咲来は狙ってくると踏んでいた。
ハイキックを放つ瞬間に身体を少し後傾させる動きが見えたので、上半身をスウェーさせて最小限の動きで躱した。

ハイキック直後のスキを突いて今度こそバックを取る。
抵抗する咲来の身体をがっちり抱えてそのままジャーマンスープレックスで後方にぶん投げた。

 

咲来の足が宙に浮き、肩がリングに着く。
腕の中で咲来がぐったりするのがわかった。
入った。

 

美月先輩がリングを3回叩いてゴングが鳴った。
試合終了だ。

 

私はそのまま仰向けになり、咲来の方を見た。
同じように仰向けで荒い呼吸に合わせて胸を上下させている咲来は、倒れたまま天井を見つめていた。
すぐに近寄ってきて意識を確認する莉子さんに頷きを返している。

「陽菜ちゃんお疲れ。相変わらずいいジャーマンだったね。もっと教えた関節技使ってくれるのかと思ったけど」

私のところに来たまどかさんが笑いながら言う。

「すみません」と私も笑いながら言って身体を起こすと、周りの拍手が耳に入ってきた。
観ていた大学生の部員の人たちが、お疲れー、いい試合だった、2人とも良かったよと温かい声をかけてくれる。

「ジャーマンあんなに痛いんだね。頭くらくらしちゃった」

莉子さんに支えられながら身体を起こした咲来に近づいて握手する。

「でしょでしょ!私のジャーマン良かったでしょー?でも咲来のハイキックもすっごい恐かった!」

「当たったと思ったんだけどなー」

「足からブン!って音聞こえたよ!前髪無くなったかと思った」

やっぱり試合となると練習よりも力が出る。
ずっと一緒に練習してきた咲来だけど、勝敗を掛けた戦いでしか感じられないものもあるんだなって思った。
プロレスを始めてたった一年足らずでこんなにヒリヒリした試合をしてくれるなんて。

「あんな危ない躱し方して。当たってたらどうすんのよ」

美月先輩は飽きれていたけど、あのタイミングじゃないとカウンターに入れないと思った。
あの場面じゃなくても背後を取れる機会はあったかもしれない。
でも守りに入りたくなかった。

一応試合だったから、と美月先輩が私の腕を上げて宣言した。

「勝者、赤コーナー、前田陽菜!」

皆がまた大きな拍手をくれた。

2月の寒さを忘れるくらい、私と咲来にとっては身も心も熱い試合になったと思う。


続く

 

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【JKプロレス】前田陽菜vs大塚咲来

雪が降るかもしれないと朝の天気予報では言っていた。
冬の空はどんよりとしていて、気持ちまでどんよりとしてしまいそうだ。
時折吹く強い風に押されるように街路樹の枝がやんわりとしなる。

昼休みが終わってからの授業は上の空になってしまい、窓の外に目を向けている。
でも頭の中は外の様子なんて気にかけていなくて、別のことでいっぱいだった。

 

今日は咲来との試合だ。

授業が終わったら翔瑛女子大に移動して軽く練習する。
大学生の練習でわざわざ時間をあけてもらってリングを使わせてもらう。
全部美月先輩が段取りをしてくれた。

交流試合から1週間と少しが経つ。
部員は相変わらず2人なので、その間も学校では今まで通り一緒に練習した。
こんなにもみっちり練習している相手との試合はやっぱり不思議な気分だ。

先週の交流試合で私は初めて3勝0敗だった。
安田葵との試合はまだもやもやしているけど成績としては申し分ない。
自分の試合が終わり、咲来も最後の試合は欠場になったので、高山さんの試合を観に行った。

高山さんのグループにも千葉県の白浜女子1年がいた。
強豪校対決だったけど、危なげなく白星を上げていた。
相手の技を受けても、足を取られた時も的確に対処し、決定打を受けない。
攻撃は言わずもがなの迫力で、長身から繰り出されるダイナミックな技に思わず息を止めてしまうほどだった。

「陽菜、さっきの授業聞いてなかったでしょー」

すっかり上の空のままチャイムが鳴ってあかねが話しかけてくる。
この成績優秀者は家では勉強したくないからと授業中に全部頭に入れてしまう。

「六限目はもうきついんだもん」

「今日のサラリンとの対決で頭いっぱいなんでしょ」

授業が終わっているのに机の上で開きっぱなしになっている教科書をあかねが閉じながら言う。

「楽しみ?それとも恐い?」

「楽しみに決まってるじゃん。でも、ずっと2人で一緒に練習してさ、もうすぐ一年になるって思うと、他の対戦相手とはまた違った見方しちゃうな」

「陽菜が作った部活で陽菜が勧誘した唯一の部員だもんね」

一から自分で作った環境で、咲来は咲来なりに思うところがあったみたいで仲間になってくれた。

「うん。でも今日は絶対勝つ」

 

授業が終わって咲来と一緒に翔瑛女子大に向かった。
いつも通っている道なのに何となく緊張する。

「なんかさ、緊張するね」

「うん」

咲来も言葉少な、と言いたいところだけど、たぶんいつも通りだ。

話すことがないわけではなく、頭の中で今日の試合のシュミレーションをしている間に大学に着いた。

着替えていつも通りアップする。
ストレッチから軽めの筋トレ、リングの上での動きと受け身の練習を終えて休憩に入った。

「じゃあちょっと休んだら試合ね。準備いい?」

「はい!」

美月先輩に咲来と私が応え、それぞれのコーナーに移動する。
私のセコンドには藤本まどかさんが、咲来の方には大島莉子さんがついてくれた。
竹内葵さんは急遽バイトが入ってしまいレフェリーは美月先輩が務めてくれる。

コーナーに立って咲来の方を見ると、いつもより遠くにいるみたいに感じた。

「10分1本勝負ね。レディー…ファイッ!」

 

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【JKプロレス】前田陽菜vs安田葵

リングに上がると安田葵はさっき見たような目はしていなかった。
あれは何だったんだろう。

「よろしくお願いします!」

握手を交わす時、安田葵もか細い声で「よろしくお願いします」と言ったのがぎりぎり聞こえた。

 

試合開始のゴングが鳴る。
すぐに跳びかかっては来ない。
でもお互い近い間合いでの攻撃が得意なので、にらみ合っていても始まらない。

じわじわと距離を詰めて、ロックアップの形に入る。
そしてすぐに振りほどいてヘッドロック

頭を締め上げている腕から逃げられるとすぐに背後を取られる。
でも、抜けられるもんなら抜けてみろ。

ヘッドロックを解いて、安田葵をロープに振ってドロップキック。
立ち上がったところを抱え上げてボディスラム。
ここから腕十字固めに、あ、逃げられた。
でもいい流れを作れている。

 

対する安田葵はロックアップからボディスラムを決めてきた。
やっぱり足を取ってから持ち上げるまでが速い。
さらにアームホイップ。これも技の入り方が上手い。
立ち上がったところにドロップキック。
嫌なタイミングで違う技を混ぜてくる、さすがだ。

 

技を決めてはやり返され、またこっちもやり返す。
技の数もお互いそんなに変わらないので、同じように体力を削り合っている状態だ。

安田葵のボディスラムはかなり厄介で、技の形に入られるともう止められない。
そこを起点に別の技も続けて食らうことになる。
あれを何とかしないとリードが奪えない。
逆エビとか決めて体力削りたいけど、やっぱり関節技は警戒されている。
前の二試合どっちも関節技たくさん使っていたから、無理もない。

 

だんだん身体が重くなり言うことをきかなくなってくる。
もう何回ボディスラムやられたかわからないけど、ジャンピングネックブリーカーやブレーンバスターと、こっちも威力のある技が決まり始め、大技一発で勝負がつくかどうかというところまでは追い詰めた。

タックルは警戒されている。
ボディスラムかラリアットから関節技に持ち込めるか、いや、これもまた逃げられそうだ。だったらやっぱり...

安田葵の腕を掴んでロープに振った。
飛び技はこっちも出遅れる、だからここはラリアットだ。

ロープで跳ねて戻ってきたところをラリアットで倒す。

足はやっぱ取れないか、でも後ろには回り込める!

足を取るフェイクを入れてすぐさま安田葵の背後につく。
両腕でしっかりと抱えてそのまま後ろにブリッジした。
安田葵を真っ逆さまにリングに叩きつける。

いい手ごたえだ、いける!このまま抑え込んで…

ジャーマンスープレックスでブリッジしたまま抑え込みに入った。

 

この試合では防御が上手くいかなかった。
途中からは技のかけ合いでかなり消耗させられた。
強豪校相手にもちゃんと試合をコントロールできるようにならないと。

レフェリーがカウントしながらリングを叩く。
腕の中で安田葵がフォールから逃げようともがいている。
それをがっちり抑えた。
もう少し、これで決めるんだ。

あと1カウントだった。
安田葵の身体が大きく跳ねて、ブリッジが崩れた。

嘘、返された!?
あれだけ手ごたえがあったのに。

すぐに安田葵の方を見た。
フォールは返したもののすぐには立ち上がれなさそうだ。
すぐさま両足を取って今度は逆エビ固めで絞り上げる。

もう抵抗する体力が残っていないのか、すんなりとステップオーバーできた。
背中に座り込んで体重を後ろにかけると一気に反りが深まる。
我ながら完璧な逆エビ固めだと感じた。

それと同時に安田葵がギブアップし、試合終了のゴングが鳴った。

勝った。
課題はまだまだ残っているけど、強豪校相手に十分戦えることがわかった。
なのに気持ちは全く晴れなかった。

 

試合終盤で決めたジャーマンが返されるなんて。あれだけの手ごたえがあって。
あの後安田葵はすぐには動けなかった。やっぱり効いていたはずだ。
抑え込みを返したところで動けないならその後でまたキツい技を食らうことになる。
今みたいな逆エビ固めとか。

同じ投げ技を得意とする選手としてのプライド?
あんたのジャーマンにはやられないっていう意思?

逆だったら、私は安田葵のジャーマン返せたのかな。

わからない。
試合に勝ってこんなにもすっきりしないのは初めてだった。

 

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【JKプロレス】井上ひかりvs安田葵

井上ひかりと安田葵の試合は序盤こそいい勝負だったけど、後半は安田葵ペースだった。

安田葵の投げ技に押し負けず井上ひかりも飛び技や関節技で応戦していた。
でも関節技がなかなかいい形に極めさせてもらえず、じわじわと体力差がついていった。

バックドロップを決めた安田葵は抑え込みに入らず、井上ひかりを立たせてすぐさま今度はジャーマンスープレックスで叩きつけた。
強烈な投げ技の二連発。そのまま3カウントを奪って安田葵が勝利した。

切れのある強烈なジャーマンだ。
あんなの目の前で見せられたら、私だってやりたくなってくる。

勝ち名乗りを受ける安田葵と目が合った。
さっき話していた時とは違う目。
内気な性格に似合わない挑戦的な目だった。
このジャーマンであなたのことも負かしてやる、そう言われたような気がした。

臨むところよ。

決めた。次の試合はジャーマンで勝つ。

 

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【JKプロレス】岩田結菜vs大塚咲来

白浜女子2年の岩田結菜の試合はよく覚えている。

去年の南関東大会で観た時は、試合序盤でも大技を出してくる選手だった。
フィニッシュホールドにしてもおかしくないようなレベルの裏投げを開始数分で決めてしまう。
強烈な投げ技の合間にも容赦ない飛び技や打撃系の技、スキを突いた関節技で相手を削っていく。
最後は豪快なジャーマンスープレックスで決めて初戦を勝ち上がっていた。
常に最大火力で相手が倒れるまでダメージを重ねていく、超攻撃型の選手だ。

 

咲来との差は歴然としていた。
組んだら最後、バックドロップや裏投げと、強烈な技が襲いかかる。
でも咲来の最大の武器はキックだ。
間合いを取っても戦える。
でも綺麗には入らない。

「大塚さん、いい選手ですね」

振り向くと横に高山美優が立っていた。
急に話しかけてくるからびっくりして声を上げてしまったけど、高山さんはリングから目を離さない。

「うちの部員だからね」

強がって言ってはみるものの、今の咲来はほぼサンドバッグ状態だ。
このままじゃそう長くはもたない。

「一試合目、長時間の試合だったみたいですが最後まで集中力を切らさず、いい試合でした」

「観てたの?」

「自分の試合が終わって少し覗いたくらいです」

高山さんなら相手によっては数分とかからず試合が終わることもあるだろう。
早めに試合を終わらせて観ていたのだ。

咲来はロー、ミドルと種類を混ぜながらガードを翻弄し、ようやく渾身のローキックがバシっと音を立てて入った。
これ決まってなかったらカウンターでキツい投げ技食らってただろうな。
それに臆せず思い切った一発を放った咲来の勝負強さもすごい。
高山さんも「あら」と楽しそうに呟いた。

 

しかしそこからは岩田結菜の猛攻が続いた。
今度は咲来をロープに振ってからのラリアット、ジャンピングネックブリーカー。
さらにバックドロップが決まり抑え込みに入る。
でもこれを咲来が返す。
けどギリギリだ。ここで関節技決められたらもう逃げられない。

しかしそのまま岩田結菜は立ち上がる。
そして咲来も立ち上がろうとした時だった。
咲来めがけて突っ込んでいく岩田結菜の身体がリングを蹴って宙に浮く。
咲来が立てた膝を駆け上がって頭部に膝蹴りを入れた。

「咲来!」

思わず叫んだ。

シャイニングウィザード
やばい、もろに入った!?

咲来がそのまま仰向けに倒れる。
岩田結菜は今度は抑え込みに来ない。
レフェリーが間に入ったからだ。

「今の入り方だと止めざるを得ませんね。大丈夫でしょうか」

私は駆けだした。
試合は終わっている。
セコンドでもないけど構わない。

咲来の横に膝を着くとぼんやりとこっちを向いた。
よかった、意識はある。
でも視界は揺れて焦点は定まっていない。

咲来は医務室に運ばれ、私はそれに付き添った。
脳震盪は起こしていないみたいだけど、今日の残りの試合は欠場することになった。

でも当の咲来本人は医務室で少し休んで出てきてからはケロっとしている。

「本当に大丈夫?」

「うん。意識飛びそうだった」

「もうめちゃくちゃ心配したよぉ」

「私も、前田ちゃんの時はすごく心配だった」

この前の交流試合で、宮崎沙耶香と戦った時に私もレフェリーストップで負けた。
プロレスをやっているとこういうことがたまにある。
十分気を付けているし、技をかける側も悪意はない。
誰が悪いわけでもないけど、誰かが目の前でそうなると心配で堪らない。

「前田ちゃんの時はあんなに心配だったのに、いざ自分がそうなると軽く考えちゃうね」

私はまだ心配だ。
でも医務室では問題ないと言われ本人も平気そうだし、今日はもう試合しないからひとまず大丈夫なのだろう。

私はあと一試合残っている。
目の前の試合に集中しないと人の心配している場合じゃなくなるかもしれない。

相手は紫苑女子の安田葵。
気持ち切り替えなきゃ。

 

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【JKプロレス】前田陽菜vs新井美紀

「安田さんさっきのキャプチュード凄かったね」

「あ、うん。ありがとう」

「あんな難しい技、試合で決めちゃうなんて。生で見たの初めてだったよ」

「あんまり使う人、いないよね」

安田葵はぼそぼそと喋る。胸元まで伸ばした綺麗な髪に、透き通るような白い肌。
あと、ちょっとハーフ?クオーター?っぽい顔立ちが特徴的だ。
街で声かけられたりしそう。

「投げ技、好きなんだね」

「うん。前田さんは?」

「私も好きだよ。ジャーマンで決めた時がやっぱ一番気持ちいいんだー」

「そう…なんだ」

そう答えながらも今日はジャーマンスープレックスをまだ決めていない。
何だか警戒されている気がして。
私も有名になっちゃったのかなとか思ったり。
中学の頃を知っている人から聞いたとかかもだけど。
でも今は特訓中の関節技を試したい気持ちも強い。

 

私の二試合目は新井美紀との対戦だ。

リングに上がって向かい合うと、身長は私と同じくらいだけどスレンダーな分、長身に見える。
この長い脚が厄介だ。

 

試合開始のゴング。
すぐさま強烈なローキック。

いっ...!これ届くの!?
脚長いな。咲来並みの蹴りだ。
思いっ切り蹴られた。

でも二発目はさっきより軽くて何とかスウェーでかわす。
間合い掴まれる前に一発目は思いっ切りいく作戦なのかな。

後の展開は安田葵の試合とほぼ同じだ。
とにかく連打。蹴って蹴って蹴りまくってくる。
だから私は捌いてかわしてを繰り返す。

キック一筋の新井美紀と投げ技一筋の安田葵。
2人には圧倒的な実力差があったけどその差は何だろう。
何かに特化した戦闘スタイルということは共通しているのに、何が2人の命運を分けたのだろう。

新井美紀の動きの切れが落ち始めたタイミングで前に出る。
ボディスラム、ブレーンバスターを立て続けに決めた。

私も咲来にキックの対処法を特訓してもらってなかったらもっと食らってただろう。
そうしたら後半は足の踏ん張りが効かなくて、動きが落ちたところにハイキックが来るのかな。

立たせると今度はロープに振ってドロップキック。
立ちあがろうとしているところを後ろから首根っこを押さえて飛びかかる。
フェイスクラッシャーで叩きつけた。

今のが効いた。
この状況ではもう試合序盤みたいなキックは打てない。
それがわかると新井美紀はもう恐くない。

うつ伏せの新井美紀の左足を両足で挟み、背後からフェイスロックをかける。
STFで絞り上げた。ロープに進もうとするけど、それだけの筋力も、それまで堪えられる余力もないはずだ。

しばらくすると限界に達した新井美紀がギブアップし試合終了となった。

 

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【JKプロレス】安田葵vs新井美紀

Bグループ第二試合は紫苑女子の1年安田葵と川崎中原の2年新井美紀だ。
新井美紀はすらっと背が高く手足が長い。
長めの茶髪で、ドラマに出てきそうな雰囲気だ。

安田葵は中学の時に何度か戦ったことがある。
ある意味やりにくい相手だ。
戦闘スタイルが私に近い。

 

ゴングが鳴ると新井美紀が鋭いローキックを放った。
うわ、今の蹴りすごい。咲来みたい。

何かの経験者だろうか。
そこからもどんどんキックを繰り出していく。
蹴りのリーチが長く、安田葵を寄せ付けない。
いや、逆に距離を詰められたくないみたいに見える。

安田葵は一発目こそ食らったものの、それ以降はガードを固めて攻めるスキを窺っている。

 

でもこのまま蹴りを出し続けるのは新井美紀の方がスタミナ的にキツい。
それを待って安田葵も無理には攻めないのか。

新井美紀もそれに気付いたのか、自らロックアップの形に入って安田葵とがっちり組んだ。
と思った次の瞬間には新井美紀は抱え上げられてリングに叩きつけられていた。

 

ボディスラムの入り速っ!
足取ってから持ち上げるまでが一瞬だ。

起き上がったところにもう一度ボディスラム、からのアームホイップ。
投げ技をテンポよく連発し、長身スレンダーな新井美紀を人形みたいにばったばったと何度も投げていく。

序盤の攻勢とは打って変わって新井美紀は防戦一方だ。
立ち上がってすぐに間合いを取ろうとするけど安田葵が先回りしてロックアップの体勢にならざるを得ない。
ここまで間合いが近いと新井美紀は出せる技がほとんどないし、安田葵もそれに気付いている。

 

何とか距離取った。
でもだいぶダメージあるな。
わっ、ハイキック!入った!?
ギリギリガードした?
でもちょっとよろけた。

さらに新井美紀が安田葵のボディにミドルキックを打ち込む。
でもこれは安田葵がキャッチ。
テイクダウンして関節技か、いや、足を抱え直した。
腕に担ぐみたいな、この体勢は!

もう一方の腕で首を引きつけるように抱えて後方にぶん投げた、キャプチュードだ!

 

新井美紀は身体を丸め込まれた状態で叩きつけられた。
受け身を取るのも難しい投げ技だ。

うわ、これはきっついな。
安田葵がそのまま押さえ込む。
これは返せない。

ダメージが蓄積しているのもあるけど、戦意喪失させるのに十分な一発。

すごい。きっと安田葵は中学の頃からずっと投げ技に磨きをかけてきたんだ。
そして高校生になってこんなに威力の高い技も使いこなしている。

 

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