【JKプロレス】大塚咲来 vs 坂本美音

Cグループの試合は全て終わり、セコンドの役目も終わった。
川口真紀とは少し話せて仲良くなれた気がする。
目の前で沙耶香に勝っていたので、見ていてかなり勉強になった。
でも私だって負けていられない。
2人とまた次の試合で会うのが楽しみだ。

 

2試合目が終わった時にクールダウンは済ませていたので、ささっと着替えてHグループの試合場所に向かった。

Hグループ最後の対戦カードは咲来と坂本美音の試合だ。
試合を全て終えた人が増えてくる時間帯だからか、坂本美音のコーナー側には人がもう何人か紫苑女子大附属の子が来ていた。

お互いの応援も行っていると今日一日本当に忙しかっただろうな。
全員ではなくてもそれなりの人数が応援に集まるのは、さすが人数が多い強豪校だ。

 

咲来は次の試合なので出番を控えてリング横で待っていた。
落ち着かなさそうに立ったり座ったりしているけど、たぶん癖なのだろう。

一声かけて見やすい位置に移動した。
坂本美音は1年生にして都大会ベスト8の実力者だ。
高山美優の時ほどではないけどギャラリーが他の試合より明らかに多い。

 

ゴングが鳴って最初に咲来のローキックが綺麗に決まった。
いつもより速い。
きっと開始直後の一発目を狙っていたのだろう。

二発目のロー。これは上手く対処してきた。
そしてすぐさまロックアップに持ち込んでくる。
坂本美音はボディスラムを決めるとそのまま関節技を狙ってきた。

 

咲来動いて!ロープ!よし、大丈夫だ。

その後も同じような展開が何回かあった。
咲来の蹴りを上手く対処して直後にタックルに入ったり、ロックアップから投げ技に入ったりを繰り返している。

 

坂本美音の得意分野は寝技だ。
倒されて身体にまとわりつかれるとどんな形からでも締め技に繋げてくる。
手足を使って相手の動きを封じたり抑え込んだりしながらじわじわと首を狙われるとかなり焦る。
スタンディングで戦いたい私や咲来にとっては嫌な相手だ。

そう攻めてくるのはわかっているけど、それでも逃げられないように持ち込んでくるから大会でも勝ち上がっていくのだろう。

 

それでも咲来は食らいついていく。
自分からタックルを狙ったり、組んだところからボディスラムを仕掛けたりしている。
でも避けられたり技の途中で潰されたりするので、なかなかダメージを重ねられない。やっぱり組んだところからの動きは坂本美音が何枚も上手だ。

 

坂本美音の逆エビ固めを何とかロープブレイクしたところで試合時間が5分を経過。
体力差が目に見えるようになってきた。
それでも咲来の目はじっと相手を見ている。
ロープをしっかり掴んだままゆっくりと立ち上がり呼吸を整える。
すごい集中力だ。

 

ローキック、これは軽かったか。
坂本美音がすぐさま距離を詰めてくる。
その時だった。

前に出た坂本美音のボディに、咲来が膝を突き刺した。

ニーリフト!
ぎりぎりガードしたようにも見えたけど、入った?
距離を取ろうとするところをさらにミドルキックで追い打ちをかける。
これはガードされる。
でも防ぐので精一杯で前には出てこない。

 

「咲来いけー!」

 

チャンスだ!
相手はまだ膝を入れられたあたりをかばいながら戦っている。
ここで咲来のタックルが決まった!
足を取った!いけ!
練習してきた関節技、何でもいい、極めろ!

 

ロープが近い。
でも咲来は取った片足を脇に挟み込んでホールドしている。
もう片方も取れれば、いやこのままアキレス腱固めか、片足フリーだと極める前にロープに逃げられる、でもリング中央に引きずるのも難しい。

惜しい。咲来も迷っているみたいだ。
どの技に入るのがベストか。

 

そうこうしている間に坂本美音に片腕を掴まれた。

まずい、寝技は相手の得意分野だ。
そこから咲来の身体を引き寄せ、あっという間に首を両足で挟み込んでしまう。

 

やばい!三角絞めだ!
ロープは坂本美音の後ろ側。
立っていればすぐに位置を変えられるのに、さっきの攻防で咲来も倒されている。
締められたままでは…

 

やがて逃げられず咲来がタップした。
レフェリーが止めに入って技が解かれると、咲来はリングに倒れ込んで大きく息をしている。

 

惜しかった。
確かに実力差はあった。
でも咲来は自分でチャンスを作った。
得意のキックで坂本美音のスキを作ったのだ。
あのニーリフトがガードを抜けていたらあの場でダウンさせて、もしかしたら…。

 

やめよう。考えても仕方のないことだ。
あの場面でもぎりぎりガードしてダメージを抑え、タックルでテイクダウンを許した後も寝技で逆転した。
これが坂本美音の実力だ。

 

リングを降りた咲来も何も言わない。
だから私も余計なことは言わない。

 

「勝ちたかったな」

 

しばらくしてから咲来がぼそっと言った。

これは理屈じゃない。
咲来の気持ちだ。
だから「うん」と私は応えた。

 

「ごめんね。前田ちゃんの仇取れなかった」

「いいよ。今度私が咲来の分もまとめて仇取るから」

「別に負けてないもん。いや、負けたけど次は勝つもん」

「意味わかんない」

 

笑いながら咲来を小突くと、咲来もようやく笑った。

 

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