10分近く続いた沙耶香との激闘のしばらく後、私は大会運営に呼び出され、3試合目はキャンセルすると伝えられた。
私の試合を担当したレフェリーが試合の様子を報告し、大事を取ってキャンセルという判断になったらしい。
痛みはあるけど動けますと食い下がった。
でも判断は覆らなかった。
まぁ、あれだけ極められたからね。
「今はアドレナリンが出ていて感じないだけかもしれない、だってさ」
「そうなんだ。何もないといいけどね」
川口真紀は自分のことのように眉をひそめて心配そうな顔をしている。
「あんなの、担がれた瞬間に終わったって思うもん。前田さん無茶し過ぎだよ」
「だって残り時間あと少しだったから。絶対負けたくなくて」
川口真紀は軽くジャンプし身体を動かし始めた。
試合前のルーティンは人によって違うから面白い。
川口真紀を見ていると飛び技好きなんだなって感じた。
川口真紀は私よりも小柄でパワーも無いから、沙耶香が有利かというとそうでもない。川口真紀はスピードがある。
そして抜群の反射神経で打撃が気持ちよく決まることはない。
力で押しても柔らかく対処してくる分、沙耶香にはやりにくい相手だ。
序盤は川口真紀が沙耶香を翻弄した。
ロックアップに持ち込みたい沙耶香と、それを避けて飛び技で攻める川口真紀。
キックで様子を見ても上手く対処してくるので、組んだところからの攻防を得意とする沙耶香は技を出すきっかけを掴めないようだった。
それでも少しずつ川口真紀の動きに慣れてきたあたりで沙耶香のボディスラムやラリアットが決まり始める。
前半は川口真紀リードで途中から沙耶香が追い上げるような試合展開になった。
川口真紀が逃げ切るのか、沙耶香が追いつき追い越すのか。
でも勝敗の分け目はそれではなかった。
沙耶香がロックアップに持ち込んだところを川口真紀が片腕を払うともう片方の腕を掴んだまま飛びついた。
沙耶香の身体は川口真紀の重みで傾いていき、そのまま倒れ込んだ。
飛びつき腕十字だ。
沙耶香が何とか曲げようとしている腕を川口真紀が抱きかかえるようにしながら身体全体で伸ばしにかかる。
その間も沙耶香は暴れながらロープ際に移動しようとする。
腕が伸び切ったら関節が極まって終わりだ。
そうなれば体格差はもう関係ない。
もう少しでロープに足がかかるというところでついに川口真紀が沙耶香の腕を真っすぐに伸ばした。
それと同時に沙耶香がすぐさまタップし、試合終了となった。
相性って面白い。
私に負けた川口真紀は、私が負けた沙耶香に勝ってしまうのだ。
やっぱり勝負はやってみなきゃわからないな。
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