【JKプロレス】宮崎沙耶香 vs 前田陽菜

「宮崎さんめーっちゃ強かったよ。前田さんだったら負けないよね。中学の時はどうだった?」

 

今回のセコンド田辺美奈子は中学時代の私たちのことを知っていた。
彼女からすると一つ下の学年の強豪校聖華女子学園の選手として認識していたみたいだ。

 

「いやぁどうでしたっけ。すみません、あんまり覚えてなくて」

 

試合に集中したいので笑って曖昧に返事してしまう。
やっぱり聖華女子学園にいたことを知っている人と話すのは苦手だなぁ。
私自身あまり話したい話題ではない。

 

前の試合が終わったのでリングに上がる。いってらっしゃいと声をかけてくる田辺美奈子はどこか面白がっているようだった。
でも今はそんなことより沙耶香との試合だ。

 

こうして沙耶香とリングで向かい合うのは、校内の練習試合以外では初めてだ。
身長は私と変わらないくらいだから162cmくらいか、少し大きいか。
もともとがっしりした身体が縦にも伸び、グラマラスな体型のせいでより大人っぽく見えた。

 

ゴングが鳴ってじりじりと距離を詰める。
極力パワー勝負は避けた方がいい。
でも逃げていると思われると舐められる。
だから敢えて手四つで組みに行った。
沙耶香はすぐに反応して、がっちり組み合った。

 

くっ!やっぱ力すごい!

ぐっと一押しされたところで組んでいた手をぱっと振りほどいてタックルに入った。
振りほどいてから、近い間合いからのタックルなのであまり低くは入れない。
腰あたりにしがみついてそのままロープ際まで押し込んだ。

 

「相手の得意分野からカウンター一発決めてやりな。そうすれば相手も迂闊には攻めてこれなくなるから」

 

というのが美月先輩の教えだ。
技は仕掛けられてから対処するだけじゃなく、牽制することもできる。
自分の得意分野で戦っていたところを攻め込まれたという意識を沙耶香に植え付けるのだ。

ロープ際に押し込んだらすぐさまエルボーを打ち込んで反対側のロープに走らせる。
すぐに後を追ってロープから戻ったところにドロップキックを決めた。
組み合ったところからの攻撃パターンを作れた。
これで安易には正面から組み合えないはず。

 

今度は沙耶香が腕を掴んでロープに振ってくる。
ロープから戻ると沙耶香の体重が乗ったラリアットが胸元に叩きこまれた。

 

ぐっ…!痛ぁ…!
こんなに重いなんて。
これは何発も食らってられない。

ロープに振られたらガードできない。
だったらロープに振られるのを何とかしないと。
腕を取らせちゃまずい。
でも避け過ぎるとこっちも戦えない。
やられる以上にこっちがやるしかない。

お互いの武器は組んだところから仕掛ける技だ。
だから組み合うのだって避けてばかりはいられない。
やっぱり真っ向勝負だ。

 

リング中央で沙耶香とロックアップして組み合う。
足を取ってボディスラムに入りたい。
沙耶香もそれは狙っているから、お互い足は取られないように警戒している。
私はロープに振られないように警戒するし、沙耶香は最初みたいに私がタックルに入ってくるのを警戒している。

 

組み合って技を狙ってガードして、いったん離れる。
キックで探りを入れながらまた組み合う。

ドロップキックやエルボーといった軽めの技をいくつか決めながらも、お互いこれといった技が決まらないまま試合時間が5分を過ぎた。

 

ロープに振ろうとしても避けられる。
こっちもラリアットを食らいたくないからロープには振らせない。
完全に試合が膠着状態に入った。
攻めなきゃ勝てない。
それでもお互いのガードは緩まない。

 

そんな中、沙耶香が私の腕をがっしり掴んでロープに振ってきた。
再び強烈なラリアットがお見舞いされる。
受ける瞬間に後ろに身体を倒して衝撃を和らげたけど、その分リングに強く叩きつけられる。
しっかり受け身は取れたけどすごい衝撃だ。

これでもこんなに痛いなんて。
でも試合が動いた。今度は私が!

 

すぐに立ち上がって組み合い、沙耶香の足を取る。

 

よし!取った!
重いけどここは絶対投げなきゃ!せーのっ!

 

沙耶香がボディスラムを察知して手をかけた足に体重を乗せて上げさせないようにしてくる。
それでも全身の力で持ち上げるようにして抱え上げ、そのままリングに叩きつけた。


「まだまだ!」


休ませることなく沙耶香を立たせてロープに振る。
ロープで跳ねて戻ってくる沙耶香の首に飛びついてJネックブリーカー。
沙耶香の身体が首を支点にしてふわりと浮き上がり、そのままリングに落下する。

 

もう一発!
あ、今度は起き上がりが早い!
しまった、ロープに振られた、でもラリアットのタイミングは掴めてきたから……あれ、ラリアットじゃない。
抱えられた、スクラップバスターだ!

 

沙耶香はロープから戻った私の身体を脇に抱え上げ、私に体重を預けてそのままリングに落下。
背中から叩きつけられた。
受け身を取っても身体を衝撃が走り抜け、息が詰まる。

仰向けの私の足を取って片エビ固めで押さえ込んでくる。
ぐっと体重をかけられて胸が圧迫される。
2カウントで何とか身体を弾ませて逃れたけど、大技の直後なら返すのは難しいくらいの押さえ込みだった。

 

試合時間が8分を過ぎた。
交流試合は10分1本勝負だ。残り2分。
このまま勝敗が決まらなければ引き分けで終わる。

 

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