疲れ果てた身体を引きずって自分の部屋のドアを開けると、中からもわっと厚い空気が出てきた。
私の部屋は西日が当たるので夕方はいつもこうなる。
まずはエアコンを入れて着替えを済ませ、勉強机に腰掛けた。
もうすぐ夏休みが終わる。
窓の外を見ると真っ赤な夕日が半分雲に隠れているけど、日が沈むのが少しずつ早くなってきているのを感じた。
「あー、課題終わらせなきゃ」
机に向かっていても頭の中は先輩の話のことでいっぱいだ。
技にはそれを仕掛ける前段階がある。
それを見逃さず、潰す。
例えばボディスラムなら相手と近い間合いになる必要があるので、組み合う形からが入りやすい。
つまりボディスラムを得意とする相手ならそもそも組み合わないようにすればいい。
これが確実でありながら、でもそう単純にはいかない。
私もボディスラムを始めとする投げ技が武器だからだ。
組み合わないわけにはいかない。組んでもいいけど、必ず足を取るために姿勢が斜めになって片手を足の方に伸ばしてくるので、そのタイミングを上手く読んでかわしたりカウンターで決められる技を持っておく。そしてそれをあらゆる技に対して練習しておく。
「ボディスラムでは組むタイミング、足を取りに来るタイミングが対処するポイントになる。同じようにそれぞれの技にも対処するタイミングがあるの。それを見つけてさばけるようになるといいわ」
というのが美月先輩のアドバイスだ。なのだけど。
「技ってめちゃくちゃあるのにさー。カウンターのタイミング一個一個覚えてらんないよ」
椅子に背をもたせて上半身をのけ反らせる。一体どうすればいいのやら。
いつの間にか外が暗くなっている。さっき見えていた夕日ももう沈んでしまった。
今は遠くの雲が薄い赤紫色に照らされているだけだ。
とにかく練習あるのみか。
暗くなると窓の外は見えなくなり自分の姿が反射している。
窓に映っている自分は少し戸惑っているようにも見える。
悩んでいる暇なんてない。
後ろ向きな自分をかき消すようにさっとカーテンを閉めた。
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