【JKプロレス】都大会③

やるしかない。

時計は5分を回った。

今のところ相手が少しリード。これ以上離されたくない。

 

組ませてはもらえないだろうけど手四つに誘って首相撲の形に。

今だ!

膝は要注意!

よし!間合い詰めた!

逆にニーリフトを狙って、そのスキに後ろにまわる!

捕まえた!

 

くっ!

完璧な位置じゃない、でも絶対離さない!

このまま投げてやるっ!

 

ジャーマンスープレックスで坂本美音をリングに叩きつけた。

 

フォールは……返される。

得意のジャーマンを返されて少しショックだけど
ダメージの差は逆転できたはず。

抑え込みは2カウントまでいったし、あと少しだ。

 

しかし起き上がった美音の目つきが変わっていた。

まるで縄張りを侵された動物のような獰猛な目だ。

 

坂本美音の攻撃が激しくなる。

あのジャーマンで確実に焦っている。

たぶんもう一発決めれば倒せる。

相手もそれを感じてか、
様子見の攻防ではなく、攻めに転じてきた。

 

でもそれは好都合だ。

正面から組み合う。

膝は注意してながら足を取ってボディスラムで叩きつける。

よし!これが決まり始めればペースを作れる!

 

リングに叩きつけた坂本美音を立たせて今度はラリアットを叩きこむ。

坂本美音が後ろに吹っ飛んで受け身を取る。

下手に抑え込んで寝技に持ち込まれるのは避けたいから、
まだまだ立たせて攻撃を続ける。

 

もう一発ラリアット

しかしこれは躱された。

ロープに振られて、坂本美音のドロップキック。

 

受け身を取ったけど一瞬先に立ち上がったのは坂本美音だった。

左足を私の左足にフックして背後に周り、
右脇の下に入り込まれた。

 

コブラツイストだ!あぁっ!振りほどけない!

 

坂本美音が両腕をがっちりバインドしていて振りほどけない。

左足が固定された状態で上半身を捻られる。

右肩も固められていて身体のあちこちが痛い。

 

何とか左足のフックを外してツイストから逃れる。

後は上半身を振り解くだけ…そう思った瞬間だった。

 

振りほどくことに夢中になっている間に、
がら空きだったボディに坂本美音の膝が
吸い込まれるように入ってきた。

 

しまった!い、息ができない…!警戒、してたのに…!

 

腹部を抑えて膝を着く。

だめだ、動けない。

身動きが取れないまま、

白い腕が顎の下に入り込み首に巻き付いた。

 

まずい!スリーパーホールド…!

でもロープがそこに。手を伸ばせばまだ掴めそうな位置だ。

 

でも目の前のロープが急に遠ざかる。

強い力で後ろに引っ張られ、
遠く離れた天井しか見えなくなった。

 

後ろに倒された。

 

しかも両足で身体を挟まれて動けない。

坂本美音の柔らかい腕が首に隙間なく密着する感覚。

頭を振ってもぴったりとくっ付いて離れない。

 

それが段々と自分の視界を暗くしていくのがわかる。

 

だめだ、逃げられない!意識が…!

 

堪らず坂本美音の腕をタップする。

 

試合終了のゴングが鳴った。

レフェリーが私の後ろにいる坂本美音に合図し、
ようやく解放された。

首を締められていたせいで激しくむせて咳が止まらない。

 

「戻ってきたのね」

「えっ…?」

「最初はもっと楽に勝てると思ったわ。
でもやっぱり強いわね」

 

咳をしながら坂本美音の方を見返したけど、
彼女はすっと立ち上がってレフェリーの方に行ってしまった。

 

”ただいまの第2試合、
赤コーナー紫苑女子大附属高校、坂本さんが勝ちました”

 

私はまだ戦える。

もう一発ジャーマンスープレックスを決めれば抑え込めるんだ。

 

そんな気がしてしまうけど、会場のアナウンスを聞き、
レフェリーに腕を上げられる坂本美音を目にすると、
負けが確定したことを理解する。

 

都大会16位。

初戦敗退。

 

高校生最初の全国への挑戦はここで終わった。

まだ見ぬ全国の舞台に今年は行けないことが決まった。

 

坂本美音と握手を交わし、私はリングを後にした。

 

 

Next

entertaineronring.hatenablog.com

 

 

Previous

entertaineronring.hatenablog.com