【JKプロレス】交流試合③

開会式が終わってAグループから順に試合を行う。

リングは4つなのでまずはDグループまでの第一試合が始まっている。

 

私たちFグループのメンバーは、

 

緑ヶ丘学園 2年 石井百合

紫苑女子大附属 1年 高山美優

聖華女子学園 1年 三浦桜

朝日丘 1年 前田陽菜

 

石井さんは千葉県の私立高校の2年生。

他県の選手は南関東大会まで進まないと会わないし、もちろん初対面だ。

にしても東京の1年ばっかじゃん。

 

桜は変わらず元気そうだ。

プロレスも楽しく続けているらしい。

心優しく争いを好まない桜がこんなに長く続けるとは正直思っていなかった。

でもこうしてまた会えて嬉しい。

2人とも試合を待つ時間で他の選手の試合を眺めてはいるけど、
話すことに夢中で試合内容はほとんど頭に入ってこない。

 

「聖華みたいに常設のリングなんてないからさ。
でも作ったばっかりの部なのに練習場所があってラッキーだったよ。
昔他の部が使ってたサンドバッグが残ってて蹴り放題だよ。」

「そうなんだ。いちから始めるとなるといろいろ大変だね」

 

聖華には専用の練習スペースがある。

リングも1つ常設されているものがある。

元々は女子ボクシング部があってその時のリングらしい。

かなり前に廃部になって、ちょうどそのタイミングで
今の女子プロレス部ができたからそのまま使ってるって聞いたことがある。

学校に常設のリングなんて今や夢のまた夢だ。

 

「じゃあコーチとかはどうしてるの?」

「コーチいないんだー。仕方ないけどね。学校には経験者もいなそうだし」

 

自分が経験者であっても指導者が要らないわけじゃない。

咲来に教えるのもいずれ限界が出てくるだろうし、
私自身も上の大会を目指すために
指導者の確保は練習場所と並んで外せないところだ。

 

「あっ、そういえば、陽菜の学校に翔瑛女子大卒の先生っている?」

「え、どうだろう。先生の出身大学なんて聞いたことないかも」

「そっか。そうだよね。高校入ったばっかだしね」

 

中高一貫の私立では高等部に上がると4年目みたいなもので、
見たことのない先生の方が少ない。

 

「翔瑛がどうかしたの?」

「ううん。でも、聖華の部活の先輩でさ、中西先輩っていたじゃん?
ほら、陽菜のことものすごく気に入ってた」

 

中西先輩。

 

記憶の中を手探りすると、
快活な先輩の姿が目に浮かんだ。

 

「うーん…。あ!美月先輩!?」

「そうそう!中西美月さん!」

 

思い出した。

美月先輩は私が中学1年の時の高校2年だった人だ。

聖華の女子プロレス部は中等部と高等部が分かれているけど、
そこそこの絡みはある。

特に美月先輩は入部したての頃からとても面倒を見てくれて、
私も姉のように慕っていた。

もう先輩は今年で大学2年生になっているのかな。

 

「美月さんって翔瑛に通ってるみたいで。コーチとかお願いしてみたら?」

「美月先輩に?でも全然連絡取ってなかったから言いにくいなー。
てか先輩、今でもプロレス続けてるのかな」

 

確かに美月先輩は教えるのが上手かった。

高等部の人が中学生に手取り足取り教えることは珍しいけど、
先輩は私にいろいろ技を教えてくれた。

このジャーマンスープレックスも先輩直伝だ。

コーチやってくれたらすごく嬉しいし楽しいとは思うけど、
今先輩が何をしているのかは全くわからない。

 

「先輩たちの代って仲良かったでしょ?
で、卒業してからも定期的に集まってるんだって。
それでちょっと前にみんなで部活に遊びに来てくれて、
私も久しぶりに会って。少し話したんだけど」

 

先輩の代、仲良かったな。

実力は例年より良くなかったみたいで顧問の先生はぴりぴりしていたけど、
練習は一生懸命だし、何より皆でプロレスを楽しんでるって感じだった。

私にとってはすごく憧れだった。

 

「その時に陽菜の話になって、辞めちゃったの?って聞かれて。
この前の都大会のプログラムに名前ありましたって話したんだ。
そしたらプログラム見た先輩が、中西先輩の先輩が朝日丘にいるって言ってて」

 

えっ。誰だろう。

 

美月先輩の先輩ってことは、
もしかしたらプロレス経験者の可能性もある?

 

「先輩って今も大学で続けてるとか言ってた?」

「ううん。今は選手ではないんだって。
でもプロレス部には入ってて、マネージャーやってるって言ってた」

 

卒業のタイミングで辞めていく人が多い中、
どんな形であれ今もプロレスに関わっていることに
何だか安心するし嬉しい気持ちになる。

 

「そうなんだー。誰だろう。
でも先輩の先輩ってことは、経験者ってことだよね。
うちの先生にはいないと思うんだけどなー」

「名前とか聞いとけばよかったね。
あ、でも、今年卒業して先生になったって言ってたから新任の先生じゃない?」

「え!?ほんと!?」

 

新任の先生と言われると一人しか思いつかない。

顧問の堀田先生。

 

いや、でもプロレスのことわからないって言ってたし。

もう辞めたからやってたって言いたくないだけの隠れ経験者なのかな。

でもプロレスのことはほんとに知らなさそうだった。

 

他に新任の先生っていたっけ。

最初の全校集会で紹介されてたんだろうけどちゃんと聞いてなかったな。

 

「新任の先生だと今の顧問くらいなんだよね。
でも、少なくとも美月先輩を知ってる人が学校にいるってことだよね。
そしたらその先生にコーチの相談できるかも。
また学校で聞いてみるよ。ありがとう」

「うん。先輩も心配してたから連絡してあげてよ」

「はーい。あ、やばっ!咲来の試合だ!私ちょっと行ってくるね」

 

誰かははっきりしないけど先生の中に美月先輩と繋がっている人がいる。

学校側も信頼できる人物であれば外部の人でもコーチをお願いしやすいかもしれない。

一筋の光が見えた気がした。

 

 

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